日本の医療・介護現場の人手不足と外国人医療従事者


医療法人孝至会みのりクリニックで働き始めて1年4か月が過ぎました。
日本に来て初めての職場は神戸の中規模病院(150床)でした。6年間、病院の仕事だけではなく、日韓医学交流にかかわることが多い病院だったので、知らないうちに交流関連の仕事がメインの仕事になっていきました。
日韓交流の仕事は主にシンポジウムの準備や論文の作成・発表だったのですが、それ以外、日本で働こうとする韓国の医療従事者の情報を集める仕事もありました。
勉強をしていくと、自然に、韓国の医療従事者だけではなく他の国から来日する医療従事者の情報などを集め、分析することになりました。その知識を背景に、今回は、日本の医療現場が変わるかもしれないという話をしてみようと思います。
日本は65歳以上の人口の割合が国民の4人に1人(25%以上、2013年)、これがさらに2030年代には3人に1人になると予想されており、高齢者人口の割合は世界一とも言えるほどで、超高齢化社会をもうすぐ迎える状況にあります。
また、そのうち、要介護認定を受けている人は600万人を超え(2014年時点)、65歳以上の高齢者のうち約18%が介護の必要な状況となっています。これはほぼ10年間で倍増しているような推移です。
このような医療現場の人手不足を打破するための日本政府の対策の一つがEPA看護師です。
ニュースを通じてEPAという言葉を聞いたことはありませんか?
EPAというのは「Economic Partnership Agreement」の略語で、日本語で言うと「経済連携協定」と言います。ちなみにEPAはFTAの前段階とも言われております。
丁度、9年前の2008年12月に日本は東南アジア(インドネシア、フィリピン、ベトナム)とEPAを結びました。協定内容には、毎年何百人も看護人材を受け入れるという内容も含まれています。内容だけをみると、東南アジアの国は外貨稼ぎのチャンスが生まれ、日本は医療・介護現場の人手不足状態を打破出来るという、ウィンウィンの関係でした。この年はNHKを含め、多くの放送局でニュース番組や情報紹介プログラムに取り上げられて日本全国に知られるようになりました。
この時来日した医療スタッフは全員看護師さんでした。
厚生労働省では日本の大学基準(医学部や看護大学など)をクリアした外国の医療従事者に日本語1級などの条件を満たす外国人には書類審査と面接のあと、日本の国家試験を受験できる機会を与えています。
東南アジアの看護師たちは厚労省の基準をクリアするのは少し難しいが、EPAのおかげで、より簡単に日本の看護師国家試験を受けることができるようになりました。
そして、2009年に、初めて、EPA看護師たちの看護師国家試験がありました。しかし、その結果は今年2017年に至るまで、合格率の平均が10%以下という悲惨な結果に。(ちなみに日本の看護学校や看護大学を卒業した受験生の合格率は約90%です。)
EPA看護師さんたちの医療知識が日本の看護師と比べて足りないわけではありません。合格率が10%以下になる理由は、まず日本語、つまり言語の壁が大きいからです。
3年前、神戸大学大学院で、合格したEPA看護師による発表会があり、実際に私が参加した時の話です。彼女は一緒に兵庫県に来た数人のうち2以外は不合格となったといいました。しかし、このように低い合格率の後、EPA看護師たちが皆医療現場に残っているわけでもありません。一生懸命に勉強して合格したけれど、文化の壁などを乗り越えることができず、帰国するケースもあると言っていました。
このようにEPA看護師が日本の国家試験に不合格となったり、帰国したりするケースが出てきたので日本政府は今年から新しいビザ制度を作りました。それは介護ビザというものです。
看護師試験よりハードルが低いため、定着できると思いますが、まだ始まったばかりなので、気長に待って、結果を見なければならないでしょう。

みのりクリニック 受付 黄 ウラム

2017年12月01日